第１話 演劇の聖地

メインストーリー

プロローグ

第１話　演劇の聖地

登場人物

監督（いづみ）

伊助（支配人）

晴翔

迫田

いづみの母親

天鵞絨駅

いづみ	（ええと、劇場の場所はどこだったかな。　　　　　　　　　　　　 確かフライヤーに地図が載ってたはず）
いづみ	……MANKAI劇場。
いづみ	（これは、ビロードウェイの端っこなのかな。 ひとまず行ってみよう）

ビロードウェイ

いづみ	（聞いてはいたけど、本当に劇場だらけだ。 看板を見落とさないようにしないと……）
具合の悪そうな男（丞）	うう……。
いづみ	？
いづみ	（うずくまってる。体調でも悪いのかな）
いづみ	あの、大丈夫ですか？
具合の悪そうな男（丞）	だ、大丈夫です……。
いづみ	（全然大丈夫じゃなさそう……）
？？？（綴）	どうかしたんですか？
いづみ	あ、この人がうずくまっていたので、声をかけてたんですけどーー
具合の悪そうな男（丞）	本当に、大丈夫ですから……。
焦っている青年 （晴翔）	丞！
いづみ	？
丞	晴翔……。
晴翔	病院を抜け出しちゃだめだろ！
いづみ	え？
丞	だって、こうでもしないと、 俺はもう一生病院の外に出られないんだろ。
いづみ	（なんだか込み入った話みたいだけど、ちょっと様子が変だな）
？？？（綴）	えっと……。
通行人A	あ、ストリートACTだ。
通行人B	あの子の舞台見たことある！
いづみ	（ストリートACT？）
いづみ	（……あ、そうか！）
？？？（綴）	どうしましょう？　もう大丈夫ですかね。
いづみ	うん。ちょっと離れてましょう。
？？？（綴）	え？　でも……。
いづみ	見てればわかるから。
？？？（綴）	？？？
丞	はっきり言ってくれよ！ 俺の病気はもう治らないんだろう？
晴翔	そんなことない！
丞	嘘をつくな。俺、この間見たんだ。 晴翔と先生が話してるところ……。
晴翔	え？
丞	何も知らないまま死ぬのは嫌だ。 ちゃんと知りたいんだ。自分の病気のこと……。
丞	頼む、晴翔……。
晴翔	ここじゃ人目につく。病院で話そう。
丞	……わかった。
いづみ	（ここでひと段落かな？）
丞	ご観覧ありがとうございました。
晴翔	ありがとうございました！
通行人A	やっぱり、GOD座の役者はうまいなー。
通行人B	演技に惹き込まれるよね。
いづみ	（本当に、目が話せなかった！ 今のがお芝居だなんて思えないな）
？？？（綴）	え？　演技？　今のはお芝居ってこと？
いづみ	ストリートACTっていって、 アドリブでお芝居をする、路上パフォーマンスだよ。
いづみ	資金稼ぎと宣伝を兼ねて劇団員がやってるの。
？？？（綴）	あー！　即興劇とかフラッシュモブ？　みたいなもんか。
いづみ	そうそう。小劇場が多い街だと結構盛んなんだけど、 最初は驚くよね。
？？？（綴）	へえ……さすがは演劇の街。……俺ももっと勉強しないと。
丞	アンタたち、さっきは心配させて悪かったな。ありがとう。
晴翔	出てきたら通行人と話してるからびっくりした。
丞	お前が出てくるのが遅いんだ。
晴翔	何それ、僕が悪いっていうの？
いづみ	ちょっとびっくりしたけど、面白かったよ。
丞	よかったら、今度GOD座の舞台も見に来てくれ。
いづみ	うん。
？？？（綴）	あの、GOD座って今団員募集してますか？
晴翔	してるけど、入団希望？
？？？（綴）	まだ考え中なんですけど、寮とかあります？
晴翔	うちはそういうのないんだよね。実家暮らしの奴以外は皆、 近くに部屋借りてるかな。
晴翔	稼げる人なんて一握りだから、大変だよ。 いつもカツカツで仕送りに頼ってる奴らも多いし。
？？？（綴）	そうですか……。
晴翔	経験者で実力あるっていうなら別だけど？
？？？（綴）	わかりました。ありがとうございました。
？？？（綴）	それじゃあ、俺はこれでーー。
丞	ありがとうございました。
いづみ	（あの子、劇団に入りたいのか…… なんだか昔の自分を見てるみたいで懐かしい）
いづみ	（私も投げ銭入れていこう）
晴翔	毎度あり！　またねー。
いづみ	（この子たち、華があるし演技もうまいし、人気が あるんだろうな。さすが本場ビロードウェイはレベルが高い）
いづみ	（今から観に行く舞台も楽しみになってきた！）

MANKAI劇場

いづみ	（MANKAI劇場って、ここ……だよね）
いづみ	（すごい歴史がありそうっていうか、古いっていうか、 率直にボロい……！）
いづみ	（今日公演があるはずなんだけど、人の気配がないし、 大丈夫なのかな）
いづみ	（こんなところまで来て、 この手紙がただのイタズラだったら……）

いづみの実家　回想

いづみ	MANKAIカンパニーってお父さんのいた劇団だよね？
いづみ	差出人の人、お父さん宛に手紙をよこしたってことはお父さんのこと知ってるはずだし、会えば何かわかるかもしれないよ。
母親	だったら、勝手にしなさい。お母さんは知らないから。
いづみ	お父さんがいなくなってから、もう八年だよ？ お母さんは心配じゃないの？
母親	あんな人、どうせもうどこかでのたれ死んでるわよ。 縁も切ったし、どうでもいいわ。

MANKAI劇場

いづみ	（あんなこと言って……お母さん、 本当にお父さんのこと心配じゃないのかな）
いづみ	（それに、この手紙を送ってきた松川伊助って人、お父さんとどんな関係があるんだろう。お父さんの劇団の関係者とか？）
？？？（左京）	おい、お前この劇場に何か用か。
いづみ	ーー。
いづみ	もしかして、松川さんーー。
ヤクザっぽい男（左京）	ああん？
いづみ	（違う。違うな。どうか違いますように！）
ヤクザっぽい男（左京）	お前……まさか。
いづみ	あ、人違いです。私、手紙とか何も受け取ってませんし、 通りすがりの通行人Aです。
いづみ	（まさか、お父さん、この人に借金してたとか、 そういうオチじゃないよね？）
ヤクザっぽい男（左京）	……用がないなら、さっさと立ち去れ。 危ない目に遭いたくなければな。
いづみ	危ない目……？
？？？（伊助）	きゃあああ！
？？？（迫田）	おらおらおらー。
いづみ	！？
いづみ	（な、何！？　この音って……）
いづみ	（あれ、ショベルカー！？）