メインストーリー
第1幕 The Show Must Go On
第1話 3つの条件
登場人物
監督(いづみ)
伊助(支配人)、迫田
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MANKAI劇場(夜)
支配人 | それじゃあ、さっそく団員寮にご案内しますね。 |
いづみ |
(何かお父さんのことがわかればと思ってここまで来たけど まさか、お父さんの劇団に入ることになるなんて思わなかったな…) |
いづみ | (しかも、あの古市ってヤクザの人から出された条件……) |
MANKAI劇場 客席(回想)
古市 | いいか一度しか言わないから、よく聞け。 |
古市 |
一、来月中に新生春組の旗揚げ公演を行い、 千秋楽を満員にすること。 |
古市 |
二、年内にかつてと同じく4ユニット分の劇団員を集め、 それぞれの公演を行い、成功させること。 |
古市 | 三、一年以内に劇場の借金を完済すること。 |
古市 |
どれか一つでも達成できなければ、 問答無用でこの劇場をバーレスクに作り替える。 |
支配人 | 無理です! 一つ残らず全部無理です! |
古市 | なら、今すぐ看板下ろせ。 |
支配人 | 殺生な! |
いづみ |
旗揚げ公演だけならまだしも、年内に四回の公演なんて、 いくらなんでも無茶です! |
いづみ |
あと10か月もないのに! せめて、丸一年くらい待ってくれてもーー。 |
古市 | 甘ったれんじゃねえ! |
いづみ | ーー。 |
支配人 | ひい! |
古市 | この劇団の借金がいくらか知ってんのか? 1000万だ。 |
いづみ | い、1000万……!? |
綴 | うわー……マジっすか。 |
咲也 | 想像できない……。 |
いづみ | ……無理ですね。諦めましょう。 |
支配人 | 監督までそんなこと言わないでください……! |
古市 |
わかったか? 俺は最大限の譲歩をしてやってる。 これ以上は譲れん。それとも……。 |
古市 | お前が泡に沈んで返済するっていうなら、話は別だがな。 |
いづみ | ーーっ。 |
真澄 | この人に触るな。 |
古市 |
……。 |
真澄 | ……。 |
支配人 | 監督が泡に沈めば助かる……。 |
いづみ | ちょっと、支配人!? 何、真剣に考えてるんですか!? |
綴 | いやダメだろ、それは! |
咲也 | 泡ってなんですか……? |
支配人 |
い、いやあ、ちょっと考えてみただけですってば。 ひゅー、ひゅー。 |
いづみ | (口笛ならせてないし、とぼけ方が古過ぎる……) |
古市 | ふん。それから、もう一つ条件がある。 |
いづみ | ……なんですか? |
古市 | お前だ。 |
いづみ | 私? 私は泡なんてーー。 |
古市 | お前がこの劇団の総監督とやらになること。これが最後の条件だ。 |
支配人 | それならいけます! |
いづみ |
ちょっとそんな簡単に言わないでください! 大体なんで私が条件に……。 |
古市 |
そこの天パのポンコツぶりは、今日でわかっただろう。 そいつに任せたら来月まで持たずに劇団は解散する。 |
支配人 | う……否定できない……。 |
いづみ |
私は、今日の団員集めを手伝っただけで、 監督なんてそんなつもりは……。 |
古市 |
なんだ、やっぱり逃げるのか。父親と同じだな。 |
いづみ | ーーどういう意味ですか。 |
古市 |
お前の父親は総監督でありながら、 劇団を放り出して逃げたと聞いている。 |
古市 |
大方経営がうまくいかなくなって、投げ出したんだろう。 娘のお前も、しょせん蛙の子は蛙だな。 |
いづみ | ーー。 |
支配人 | 幸夫さんはそんな人じゃありません! |
古市 | だったら、なぜこの劇団はこんな状況になっている? |
支配人 | それは……。 |
いづみ | (お父さんが、逃げ出した……?) |
いづみ |
(そんなはずない。あんな熱心に劇団に打ち込んでいた お父さんが逃げ出すなんて、そんなの……) |
いづみ | ーー。 |
いづみ |
(全然家には帰ってこなかったし、たまに帰って来ても 演劇のことばかりで、遊びにも連れてってもらえなかった) |
いづみ | (でも、それは演劇が好きだから。この劇団を愛してたからだ) |
いづみ | (お父さんの劇団がなくなるなんて……そんなの嫌だ) |
いづみ |
(この劇場は、きっとお父さんが作り上げた城だ。 お父さんが演劇にすべてを捧げてきた証で、結晶) |
いづみ | (そんな宝物を壊させたりしない) |
いづみ |
……私が逃げなかったら、 ヤクザさん、さっき言ったこと撤回してくれますか。 |
古市 | さっき言ったこと? |
いづみ |
お父さんは逃げ出したんじゃない。 この劇団を放り出したんじゃないって。 |
古市 | お前が本当に条件をすべてクリアできたらな。 |
いづみ | わかりました。 |
古市 |
劇団の総監督になるっていうことは、 今年いっぱいこのへっぽこ劇団の面倒を見るっていうことだぞ。 |
いづみ | はい。責任をもってやり遂げます。 |
支配人 | やったー! 監督万歳! |
古市 | ふん。せいぜいやるだけやってみるんだな。 |
古市 |
どうせ来月の公演で引導が渡されることだろう。 千秋楽の空っぽの劇場を見に来てやる。 |
古市 | ……それと、俺の名前はヤクザさんじゃねえ。古市左京だ。 |
いづみ | 左京さん……。 |
左京 | 引き上げるぞ、迫田! |
迫田 | あいあいさー! |
支配人 | 後でほえ面かくなよー! |
いづみ | (相変わらず支配人は変わり身が早い……) |
支配人 | よーし、来月の公演にむけてがんばっていきますよー! |
咲也 | お、おー! |
綴 | 大丈夫なのか……? |
支配人 | 大船に乗ったつもりでドーンと構えてください! |
いづみ |
なんでそんなに楽観的なんですか! 普通なら準備に半年はかかるのに、来月公演なんて……。 |
支配人 | 監督がいるから大丈夫です! |
いづみ | だからーー。 |
支配人 |
幸夫さんがいなくなってから、ずっと監督不在だったんです。 僕一人で全部やってきて、どうにもならなくて……。 |
支配人 |
でも、監督が来たからには、きっともう大丈夫です! 元の劇団みたいに皆でかんばっていけます。 |
支配人 | 幸夫さんの娘さんなら、何も心配いりません! |
いづみ | 支配人……。 |
いづみ | (お父さんがそれだけ信頼されてたってことなのかな……) |
支配人 |
ふんふんふーん、一年後には借金完済かー。 完済したら、この劇団も改装しちゃおっと! |
いづみ |
(にしても、この危機感のなさが、 今の状態を招いた気がする……) |
咲也 | あの、劇団はなくならないんですよね? |
綴 | 色々やばそうだけど、本当にやってけるのか? |
真澄 | アンタも劇団に入るんだよな。 |
いづみ |
(みんな、心配だよね…… ここは監督である私がしっかりしなくちゃ) |
いづみ |
ここまで来たら後には引けないから、 私が責任をもってなんとかします! |
支配人 | 監督……! |
咲也 | よろしくお願いします、カントク! |
綴 | それじゃあ、乗り掛かった船だし、俺もがんばります。 |
真澄 | 劇団はどうでもいいけど、アンタが残るならいい。 |
いづみ | みんなよろしくね! |
支配人 |
は〜幸夫さんがいなくなって以来のこの安心感! 今日からゆっくり寝られますよ〜。 |
いづみ | (本当に大丈夫かな……) |
いづみ |
(先行き不安すぎるけど、お父さんが大事にしていた MANKAIカンパニー、絶対に守ってみせるからね……!) |
MANKAI劇場(夜)
いづみ |
(……勢いで責任持つ、なんて言い切っちゃったけど、 やっぱり不安だ) |
支配人 | 監督、こっちですよ! |
いづみ | あ、はい! 今行きます! |