メインストーリー
第1幕 The Show Must Go On
第13話 初代春組OB
登場人物
監督(いづみ)
支配人、雄三
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MANKAI寮 廊下
支配人 |
そういうことなら、元春組で、今は演劇学校の 教師になってる人がいるので、呼んでみましょうか。 |
支配人 | 忙しい人なので、いつ捕まるかはわからないですけど……。 |
いづみ | お願いします! |
稽古場
いづみ | 咲也くん、立ち位置違うよ。 |
咲也 | あ、すいません。 |
シトロン | ドンマイネ。 |
綴 | 大丈夫、大丈夫。 |
いづみ |
(立ち稽古は始まったけど、 やっぱり皆どこか気が緩んじゃってる感じだな……) |
真澄 | ロミオは上手から登場。 |
咲也 | あ、ごめん! |
シトロン | ドンマイマーイネ。 |
至 | あ、俺、ちょっとトイレ。 |
綴 | 絶対ゲームだ……。 |
いづみ | ……。 |
いづみ |
(……どうにかしないと、このままじゃ公演に 間に合わないかもしれない) |
咲也 |
『一緒に旅に出よう、ジュリアス。 こんな窮屈な町は飛び出して、世界中を巡るんだ』 |
いづみ | (いい雰囲気を壊すのは心苦しいけど、ここは心を鬼にしてーー) |
??? | おいおい、ここは幼稚園のお遊戯会場か? |
いづみ | え? |
??? | 見てらんねえなあ。 |
いづみ |
どちら様ですか? ここは関係者以外立ち入り禁止ですよ。 |
??? |
ああん? お前こそ誰だよーーって、ん? ああ、あんたが監督の 娘か! ハナ垂らしてたチビがこんなにおっきくなったか! |
いづみ |
監督って……。 |
??? |
松川にーー今は支配人だっけか、泣きつかれたんだよ。 新団員をしばき倒してくれってな! |
いづみ |
それじゃあ、あなたが初代春組のーー!? |
??? | もう、俺が初代春組の鹿島雄三だ。 |
真澄 | どう見てもヤクザ。 |
シトロン | オー、ジャパニーズ名物の一つネ。 |
亀吉 | ユウゾー老けたナ。 |
雄三 | おー亀吉、久しぶりだな。相変わらず口が悪い鳥だぜ。 |
亀吉 | お前ほどじゃねえヨ。 |
咲也 |
亀吉とも知り合いってことは、 本当にこの人があの初代春組の方なんですね。 |
雄三 |
おら、さっさと始めてな。てめえらの一番最初の客になってやらあ。 ありがたく思えよ。 |
いづみ | それじゃあ、みんな、冒頭から通しで。 |
咲也 | は、はい! よろしくお願いします! |
雄三 | ……。 |
いづみ | どうでしょうか。 |
雄三 | はー。途中で300回は席立とうかと思っちまったぜ。 |
綴 | それ、一セリフごとにっていうレベル……。 |
雄三 |
そういうことさな。聞くに耐えねえセリフ聞かされるっつーのは、 客にとって苦痛でしかねえのよ。 |
雄三 |
まずそこの外国人。 |
シトロン | ワタシネ? |
雄三 | セリフが5つしかねえのに、出来ねえってのは幼稚園児以下だ。 |
雄三 |
日本語のセリフが言えねえなら、 この国で日本語劇に出ようなんて思うんじゃねえ。 |
シトロン | オーゥ……。 |
咲也 |
そんな言い方ないです。シトロンさんは留学生で、 日本語を勉強中なんです。これから練習すれば……。 |
雄三 |
セリフと日本語は別もんだ。外国人が日本語のセリフ頑張って言ってると 思ったら、そこで客は醒める。全体がぶち壊しなんだよ。 |
雄三 |
次、マキューシオ。言いてえことは伝わってくるが、 空回りしてんな。この脚本に思い入れがつえぇのか。 |
綴 | 俺がこの脚本書いたんす。 |
雄三 |
ああ、だからか。独りよがりなんだよ。その先に 客がいること考えて、伝わるようにしなきゃ、ただの自己満足だ。 |
綴 | なーー。 |
雄三 | その次、ティボルト。こいつは、別に言うことねえな。 |
至 | え? |
雄三 |
やる気ねえなら、さっさと舞台から下りろ。以上。 |
至 | ……。 |
雄三 |
次、ジュリアス役。お前か。 |
真澄 | ……。 |
雄三 | 何を気にしてんのか知らねえが、ちらちら監督の娘意識しすぎだ。 |
雄三 |
演技自体たいしてうまくもねえくせに、すかしてんじゃねえ。 てめえの演技はつまんねえんだよ。 |
真澄 | 何? |
いづみ | (真澄くんすらバッサリ……) |
咲也 | 真澄くんでもだめなんだ……。 |
綴 | ようしゃねえな……。 |
雄三 |
こいつなら通用すると思ってたのか? 芝居なめてんじゃねえぞ、ひよっこどもが。 |
雄三 | 最後、主役のロミオ。 |
咲也 | は、はい! |
雄三 |
問題外だな。主役のくせに舞台のことがまったくわかってねえ。 一からやり直せ。 |
咲也 | ……。 |
雄三 | まずはこんなとこだ。暇になったら、また観に来てやるよ。 |
咲也 | ……。 |
綴 | ……。 |
シトロン | ……。 |
至 | ……。 |
真澄 | うざ……。 |
いづみ | (みんな、すっかり意気消沈しちゃってる。やりすぎたかな……) |
雄三 | ああ、そうだーーおい、あんた。 |
いづみ | はい? |
いづみ | ……あのロミオ、その気になりゃ、いくらでも伸びるぞ。 |
いづみ | え? |
雄三 |
つまり、あいつを生かすも殺すもお前次第ってことだ。言っとくが 今の惨状は監督の責任だからな。しっかり受け止めろよ。 |
いづみ | ーー。 |
いづみ |
(そうだ。みんながこんなにダメ出しされたのは、 私がしっかり指導できていなかったからーー) |
いづみ | ーー気を引き締めて、がんばります。 |
雄三 | おう。 |
雄三 | ……今の姿、幸雄さんに見せてやりてえな。 |
いづみ | え? |
雄三 | なんでもねえよ。 |
いづみ | お父さんのこと、何か知ってるんですか? |
雄三 | 俺の口からは何も言えねえ。悪いな。 |
いづみ | ……。 |