メインストーリー
第1幕 The Show Must Go On
第23話 奪えない居場所
登場人物
監督(いづみ)
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稽古場
いづみ |
(咲也くん、まさかとは思うけど、 今夜もまた練習してたりしないよね……) |
いづみ | ……。 |
いづみ | (よかった。さすがに今夜は休んでるみたいだ) |
いづみ |
(頑張り屋なのはわかるけど、座長として気負いすぎてるのかな。 無理させないように、私がちゃんとセーブさせないと) |
MANKAI寮 廊下
いづみ | さてと、私もそろそろ寝ようーー。 |
いづみ | !? |
いづみ | い、今、中庭で影が動いた気がする……。 |
いづみ | (こんな夜中に誰かいるわけないし、ま、まさか幽霊……?) |
いづみ | ーー。 |
いづみ | (よ、よし、確かめよう。不審者だったら、大変だし……) |
MANKAI寮 中庭
??? | ……。 |
いづみ | 誰!? |
咲也 | うわあああ!? |
いづみ | きゃあああ! |
咲也 | って、カ、カカカントク? |
いづみ | さ、咲也くんだったんだ……。 |
咲也 | びっくりしました……。 |
いづみ | びっくりしたのはこっちだよ。こんな時間にどうしたの? |
咲也 |
なんだか眠れなくて……でも、練習すると良くないから 散歩してました。 |
いづみ | 殺陣のことで悩んでるの? |
咲也 | ……それだけじゃなくて、色々考えちゃって。 |
咲也 |
オレ、がんばってもうまくいかなくて、 いつも失敗ばっかりなんです。 |
咲也 |
やっぱり、またダメなのかなって思ったら、 なんだかこわくなっちゃって。 |
いづみ |
咲也くんはたしかに不器用だけど、努力して、 ちゃんとできるようになってるよ。 |
いづみ | ただ、今回は練習時間があまりにも少なかっただけで……。 |
咲也 | 違うんです。そうじゃないんです。 |
いづみ | え? |
咲也 | オレ、ずっと親戚の家にお世話になってるって話しましたよね? |
いづみ | うん。 |
咲也 |
いつも、引っ越した最初は、今度こそ仲良くなろう、本当の家族 みたいになれるように打ち解けようってがんばるんです。 |
咲也 |
でも、いつもうまくいかなくて……結局別の親戚のところに 預けられちゃうんです。きっとオレが何をやってもだめだから……。 |
いづみ |
そんなことないよ。今までうまくいかなかったのは、 咲也くんのせいじゃない。 |
いづみ |
人間関係は、相手があってのことだから、 咲也くんが責任を感じる必要ない。 |
咲也 | カントク……ありがとうございます。 |
咲也 |
やっとこの劇団でロミオ役っていう居場所をもらえて、本当にうれしかった。 オレも劇団の一員として認めてもらえた気がして……。 |
咲也 |
だから、ロミオ役が交代するかもって思ったら、 こわくてしょうがありませんでした。 |
いづみ | (それであんなに取り乱してたんだ……) |
いづみ | 咲也くんはどうして、そんなに演劇が好きになったの? |
咲也 |
小学校の芸術鑑賞会で観た舞台がきっかけです。役者さんがみんな 生き生きしてて、本当の海賊みたいに見えて、夢中になりました。 |
いづみ | そうだったんだ。 |
咲也 | しかも、それだけじゃないんです。 |
咲也 |
公演の途中で、学校の隣の施設で家事があったんです。警報ベルが 鳴って、舞台も中断されて避難しなくちゃいけなくなって……。 |
咲也 |
『野郎ども、海軍の襲撃だ! すみやかに引き上げろ! 段取りは覚えてるな!?』 |
咲也 |
あの時のセリフ、今でも覚えてます。パニックになりかけてた生徒 たちが、いっせいに海賊船長の誘導で非常口に避難し始めて……。 |
咲也 |
ドキドキしました。誰も火事を怖がることもなく、本当に海賊の 一員になったみたいで、夢の中にいる気分でした。 |
咲也 |
役者が舞台から降りても、物語は終わらなかった。 |
いづみ | ……『The Show must go on』ショーは終わらない。 |
咲也 |
はい。後で、そういうことわざがあるって知って、感動しました。 ショーは何があっても終わらない。続けなきゃいけない。 |
咲也 |
あの時見た役者さんみたいに、自分だけの、自信をもって 演じ続けられる役が、居場所が欲しかったんです。 |
いづみ | そっか……。 |
いづみ |
(あんなにがむしゃらにがんばってたのも、自分の居場所を とられるかもしれないって、怖かったからなのかもしれないな) |
いづみ | このロミオは、咲也くんにしかできないロミオだよ。 |
いづみ |
それに、舞台の上以外にも、咲也くんには もう誰にも奪えない居場所がある。 |
いづみ |
みんな昨夜くんをロミオだって、座長だって認めてる。 これは今まで咲也くんが頑張ってきた結果だよ。 |
咲也 | 本当に……? オレ、ずっとここにいていいんですか? |
いづみ | もちろん。いなくなったら、みんな困るよ。 |
咲也 | よかった……。 |
いづみ | 殺陣については、気持ちの整理がついた? |
咲也 | ……すみません、まだ。やっぱり、やってみたいです。 |
いづみ | はは、結構がんこだね。 |
咲也 | はい。 |
いづみ | わかった。じゃあ、故障しない程度に練習は続けてみて。 |
咲也 | はい! 明日から。また頑張らせてください! |
真澄 | ……。 |
シトロン | 壁にミミー、障子にメアリー、背後にシトロンネ。 |
真澄 | 人が多い。 |
シトロン | わが国では、盗み聞きは早口言葉300回の刑で罰せられるヨ。 |
真澄 | ……アンタも同罪だろ。 |
シトロン |
オー、即隠滅ネ。マスミも共犯ダヨ。 |
真澄 | ……アイツのこと、何も知らなかった。 |
シトロン | これから、たくさん知っていくヨ。お互い。 |
真澄 | ……。 |