メインストーリー
第1幕 The Show Must Go On
第26話 取り戻せない時間のこと
登場人物
監督(いづみ)
雄三
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稽古場
いづみ | それじゃあ、次は二幕のマキューシオのシーンからーー。 |
雄三 | おう、お前ら。今から芝居観に行くから、準備しろー。 |
いづみ | 雄三さん!? 突然くるなり、どうしたんですか。 |
雄三 |
これから俺が指導してる劇団の公演があるんだよ。 招待してやるから、勉強がてら観に来い。 |
いづみ | 雄三さんの劇団の……? |
いづみ |
(たしかに、何かもっとクオリティを あげるヒントが見つかるかも) |
いづみ | わかりました。じゃあ、みんな準備して。 |
雄三さんの劇団の公演
いづみ | (すごい……レベルが違いすぎる) |
咲也 | こんなに圧倒的なんだ……。 |
綴 | さすが雄三クオリティ……。 |
シトロン |
伊達にヤクザ面してないヨ。 |
至 | 格が違うね。 |
いづみ |
(みんな、自信なくしちゃったかな…… 帰ったら、ミーティングを開こう) |
談話室
いづみ | それじゃあ、前向きにさっきの公園から得たことをーー。 |
咲也 | 日替わり要素を入れませんか!? |
綴 | あ、俺もそれ思った。アドリブとか。 |
咲也 |
それを楽しみに通ってるっていうお客さんの会話が、 聞こえてきましたよね! |
いづみ | う、うん。いいと思う。 |
至 | 余裕があれば、ロビーとストリートACTやるとか。 |
シトロン | あれも良かったネ! |
綴 |
演出はもっと派手にしてもいいかも。 ライトとか効果的に使ってた。 |
真澄 | もっと舞台を広く使う。 |
綴 | うん、動きを考えてみよう。 |
いづみ | そうだね。 |
咲也 |
端役も全部団員でやるんじゃなくて、 客演っていう形でエキストラに入ってもらった方がいいですかね? |
いづみ | うん。他の劇団に客演を借りられないか、支配人と当たってみる。 |
綴 | その方が変化が出ていいよな。衣装替えも大変だし。 |
いづみ |
みんな……落ち込むんじゃなくて、 すごくちゃんと自分達の糧にしてるね。 |
咲也 | もっともっと、舞台をよくしたいんです。 |
綴 | できることは全部やりたい。 |
真澄 | 負けたくない。 |
シトロン | がんばらないとネ。 |
至 | 完成度あげないと。 |
いづみ |
(よかった。私が心配する必要なんてなかった。 みんなは確実に成長してる) |
いづみ |
よし、それじゃあ、今のアイデアをどう落とし込んでいくか、 考えていこう! |
MANKAI寮 談話室
綴 | ……。 |
いづみ | あれ? 綴くん、まだ起きてたの? |
綴 | ちょっと、目が冴えちゃって。 |
いづみ | そうなんだ。 |
綴 | 目をつぶると、昼間の舞台が浮かんでくるっつーか。 |
いづみ |
ああ、すごかったね。みんな、落ち込んじゃうと思ったけど、 良かった。メンタルも強くなってる。 |
綴 |
いや、本音を言えば、ビビったし、へこみましたって。 もうそんな段階じゃないから、何とか気を持ち直しただけで。 |
いづみ | 持ち直せるだけ、強くなったってことだよ。 |
綴 | そうっすかねえ。でも、もっと早く演劇やってたかったなあ。 |
綴 |
そうしたら、基礎ができた状態から始められて、 もっと色々できることがあったのに。 |
いづみ | 学校で演劇部とかには入らなかったの? |
綴 | 弟たちの世話でそれどころじゃなかったっすね。 |
綴 |
それでも、高校の時は演劇部に入ろうと思って、 仮入部したんすけど。 |
綴 |
結構熱心な部活で練習が長くて、遅く帰ったら、末っ子が 熱出して大変なことになっちゃってて……やっぱ無理だなって。 |
いづみ | そっか……家族のためにガマンしてたんだね。 |
綴 | って、建前で言ってるんすけど、どうなんすかね。 |
綴 |
それでもやりたかったら、事情話して早く帰るとか、やりようは あったと思うんすよ。でも、俺は簡単にあきらめた。 |
綴 |
自分が覚悟を決められなかっただけなのに、大好きな家族の せいにしたことが、ずっと心のどこかでひっかかってて。 |
いづみ |
でも、夢をかなえようと思ってビロードウェイで 劇団探してたんでしょう? |
綴 | それは、まあ……。 |
いづみ |
だったら、時期がちょっとずれただけで何も問題ないよ。 |
いづみ |
おかげで、このMANKAIカンパニーに 入ってもらえたんだから。私は綴くんの家族に感謝してる。 |
いづみ |
もし、もう演劇を始めてたら、他の劇団に 入ってたかもしれない。みんなとも会ってなかったかもしれない。 |
いづみ | 綴くんのオリジナルの素敵なロミジュリだって生まれなかったよ。 |
綴 | ……そっか。そうっすね。 |
綴 |
あのロミジュリがかけたのも、初代春組のロミジュリが あったから、みんなとの出会いがあったから……。 |
いづみ |
そう。これまで積み重なったうっぷんがあったから、 あの一週間にがむしゃらに情熱をかけられた。 |
綴 |
はは。確かに。あの時はほんと、今書けなかったら 一生書けないって思って、必死だったし。 |
綴 | そっか、ムダじゃなかったんだ……。 |
いづみ |
これからも書けるよ。この劇団で書いてもらわなきゃ。 綴くんはMANKAIカンパニーの看板作家なんだから。 |
綴 | 看板とか、言い過ぎっす……。 |
いづみ | そんなことないよ! |
綴 | ……じゃあ、書き続けるためにも、この公演を成功させないと。 |
いづみ | そうだよ。絶対成功させよう。 |